舌下免疫療法とは
アレルギー反応が現れないほど微量の原因物質(アレルゲン)に少しずつ慣れていくことで、数年後の症状軽減や根治を期待できる免疫療法の1種です。舌下免疫療法では、原因物質を含んだ内服薬を舌の下に投与します。これまで注射で行われてきた免疫療法と比較した場合、痛みや副作用が少なく、通院回数なども大幅に減らせるので、小児を含め幅広い方にお勧めできる治療法になっています。
治療効果
現在は、スギ花粉に対する舌下免疫療法と、ダニ(ハウスダスト)に対する舌下免疫療法が可能です。アレルギー性鼻炎の鼻水・鼻づまり・くしゃみ、アレルギー性結膜炎の目のかゆみといった症状の緩和が期待でき、必要な薬の量を減らすことにもつながります。従来の治療薬では十分な効果を得にくい鼻づまりの解消効果も期待できるため、酸素不足による集中力ダウンなどの改善にもつながります。また、口呼吸が減ることで風邪などの感染症リスクも下がります。
他にも、スギ以外の花粉症への効果、果物や野菜を生で食べた際にピリピリする花粉・食物アレルギー症候群への効果なども報告されています。
ただし、効果が現れるまで長期間かかり、治療を続けて効果を実感できる方の割合は約8割と厚生労働省による発表もされています。治療を開始する際には、長く続けても効果が現れないケースもあることを事前に十分理解しておくことが重要です。
治療対象
・5歳以上で、スギ花粉またはダニアレルギーを原因としたアレルギー性鼻炎がある
・通常の治療薬では十分な効果が得られない
・抗アレルギー薬の副作用である眠気が生活に支障を及ぼす(受験や運転など)
・鼻炎の薬を減らしたい
お子様の場合、アレルギー性鼻炎で集中力が低下する、受験・睡眠・学習・スポーツ・外遊びなどに支障が及ぶなどがあり、舌の下に薬を1分間保持して飲み込める場合は治療対象になります。
当院は小児科クリニックですが、健康に問題のない保護者の方がお子様と一緒に親子で舌下免疫療法を受けていただけるようにしています。親子で同時に行うことで飲み忘れなども防ぐことができますので、ご希望がありましたらご相談ください。
服薬方法
1日1回、舌の下に薬を入れて1分間保持し、その後に飲み込みます。薬は唾液ですぐに溶けます。毎日、同じような時間に投与を続けます。投与後の5分間は飲食、うがいをしないでください。また、投与後2時間は、激しい運動や入浴、成人の場合は飲酒などもしないでください。
治療開始時期
スギ花粉の舌下免疫療法は、スギ花粉の飛散時期に開始することができないため、開始時期は5~12月となっています。この時期に舌下免疫療法を始め、投与を続けます。なお、ダニの舌下免疫療法の開始時期はいつでも大丈夫です。副反応を注意深く観察するため、どちらか片方だけから始めます。
かねがね2年以内の検査結果がある場合(どこの医療機関のものでも可)はお知らせください。
検査結果がない場合は事前に血液検査を行います。LINEでお問い合わせください。
治療期間
3~5年の治療期間が必要です。1~2年程度で効果を実感できる場合もありますが、そこで中止してしまうと効果が持続しにくい傾向があります。
舌下免疫療法を開始することができない方
- 5歳未満
- 妊娠・授乳中
- 治療期間の5年間に妊娠する可能性がある
- 重症の喘息がある
- 重い心臓病を合併している
- がんや免疫関連の病気がある
- 以前受けた、舌下免疫療法で強い副作用があった
また、ステロイド内服を行っている場合、舌下免疫療法の効果を得られないため、開始できません。ただし、ステロイドの点眼・鼻噴霧・吸入・軟膏は併用が可能です。
副反応(副作用)
微量ですが原因物質のアレルゲンを投与しますので、アレルギー反応を起こす可能性があります。舌下免疫療法で免疫がつく以外の反応を起こした場合、副反応と呼ばれます。舌下免疫療法は開始時点に副反応が現れる可能性が最も高く、特に開始1ヶ月間は注意が必要です。
なお、気管支喘息を合併している場合、しっかり喘息のコントロールができていることが開始条件となります。
起こる可能性のある副反応
- 口腔内アレルギー症状 口内の腫れ・口内炎など
- のどのかゆみ
- 鼻炎症状 くしゃみ・鼻水など
- 消化器症状 吐き気・腹痛など
- 呼吸器症状 喘息・息苦しさなど
- アナフィラキシーショック 意識消失・蕁麻疹・呼吸困難など
アナフィラキシーショック
従来の注射による免疫療法に比べ、舌下免疫療法ではアナフィラキシーショックを起こすことがかなり少なくなっていることが報告されています。かなりまれにしか起こらず、アナフィラキシーショックを起こしたケースもほとんどが過量服用や体調悪化時の服用だったことがわかっています。また、舌下免疫療法の副作用による死亡例も報告されたことはありません。
軽い副反応がある際の治療
舌下免疫療法は重篤な症状を起こすことがほとんどありませんが、軽度の副反応を起こすことはあります。鼻炎症状などがある場合はアレルギー性鼻炎の治療に使われる抗アレルギー薬による症状緩和が可能です。
なお、ステロイド内服は舌下免疫療法の効果を得られないため、治療を開始できませんが、ステロイドの点眼・鼻噴霧・吸入・軟膏は舌下免疫療法を受けている際は併用が可能です。
治療の継続と終了
舌下免疫療法を3~5年間続けることで、8割の方は少なくとも7~8年間の症状抑制が期待できるとされています。投与を中止して効果が薄れてきたら再度舌下免疫療法を行うことで、速やかな効果につながるという報告もされています。ただし、治療の継続・中止・再開は自己判断せずに医師と相談して決めてください。
当院での舌下免疫療法の流れ
1診察
事前に予約をお取りしますので、LINEでお問い合わせください。
当日は、問診後、舌下免疫療法についてわかりやすくご説明します。
アレルギー血液検査を行って適応かを確かめます。
過去に検査を受けていてデータがあれば検査は不要です。
2処方と投与
アレルギー検査で適応があることを確認したら、1週間分の薬を処方します。初回は院内で投与し、30分間は院内待機していただいて経過を観察します。経過観察で異常がなければ、残りの6日分はご自宅で1日1回、服用します。
3再診
1週間後に再度、受診して服用状況や副反応を確認します。問題がなければ増量して1ヶ月分を処方し、ご自宅で1日1回の投与を続けます。1ヶ月ごとに受診して服用状況や効果、副反応を確認し、処方を受けます。
舌下免疫療法に関するよくある質問
舌下免疫療法は普通の治療とは違うものですか?
アレルギー反応を起こす原因物質のアレルゲンを微量投与することで、体を徐々に慣らしていってアレルギー症状を抑制する治療法です。治療を長期間続ける必要があり、効果を得られないケースもありますが、スギやダニなど対象となるアレルギーを根本的に治すことが期待できます。
どんなアレルギーに有効ですか?
スギ花粉症とダニアレルギー性鼻炎に有効な2種類の舌下免疫療法があります。ダニの舌下免疫療法は、ハウスダストアレルギーと診断された方も効果が見込めます。
何歳から治療を開始できますか?
スギ花粉とダニのどちらも、5歳以上から治療を開始することが可能です。
5歳で治療開始できる目安は何ですか?
舌の下に薬を1分間置いておき、その後それを飲み込むことができれば治療が可能です。舌下免疫療法の薬は唾液で溶けやすいため、簡単に飲み込めます。
使う薬を教えてください
スギ花粉症では「シダキュア」、ダニアレルギーは「アシテア」を用いて治療を行っています。
治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
3~5年かかるとお考えください。その間、毎日舌下錠を服用する必要があります。
舌下免疫療法の開始にあたって必要な検査はありますか?
アレルギーを確認する血液検査が必要です。この検査で、スギ花粉やダニのアレルゲンが陽性であることを確認してはじめて治療がスタートできます。当院では指先から少量の血液を採取し、30分で結果がわかるアレルギー迅速検査キットによる検査を行っています。痛みなどが少なく、幼いお子様でも安心して受けられます。
治療ができない人ケースもありますか?
5歳未満、妊娠中・授乳中、そして治療期間中の3~5年間に妊娠の予定がある方は治療できません。また、重症の喘息、重い心臓疾患があって服薬中の方、免疫疾患やがんなどがある方、以前受けた免疫療法で重い副反応を起こしたことがある方もできません。ステロイドの内服をしている・高血圧治療でベータ遮断薬を内服されている場合も、薬の変更が必要です。
通院回数や頻度を教えてください
治療を開始したら、1週間後に再診し、問題がなければそれ以降は4週ごとの通院となります。再診時に経過観察が必要な場合には、毎週、あるいは2週に1回の通院を何度か続けていただいた上で、1ヶ月ごとの通院になるケースもあります。
治療開始時期は決まっていますか?
スギ花粉症の場合、花粉の飛散時期を避けて6~12月頃に治療をスタートさせます。開始してしまえば以降は飛散時期でも内服を続けます。ダニアレルギーはいつでも舌下免疫療法を開始できます。
舌下免疫療法にはどのくらい費用がかかりますか?
お子様は無料で治療を受けられます。ママやパパがお子様と一緒に舌下免疫療法を受ける場合、初診(血液検査込み)7000円程度、月1回の再診1000円程度、月にかかる舌下薬2000円程度(院外薬局での調剤費用等が別途必要)がかかります。
舌下免疫療法の治療中に制限される薬はありますか?
アレルギー症状に対する治療薬は特に制限なく使っていただけます。ステロイド内服薬の使用はできませんが、ステロイドの点眼・鼻噴霧・吸入・軟膏は併用が可能です。